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1987年4月19日 後編

やがて音楽が鳴り止み、ステージのライトが消える。ステージ上の暗闇に人の影が見えると客席最前列の人々が歓声を上げる。
バスドラムの音が響き、ベースの音も鳴る。ギターがいくつかのコード音を鳴らす。

静寂。

ギターのフレーズが始まるとともにステージのライトが点灯する。地鳴りのような歓声がそれに続き、観客が一斉にピョンピョンと飛び跳ねる。僕も前の男の肩を掴みながら飛び跳ねる。
客席が大きくうねり、巨大な生物が激しく波打ちながら蠢いているように見える。そして僕自身もその生物の一部だ。

歓声や叫び声や奇声。肩を掴んでいないほうの腕を空に突き上げる。そして飛び跳ねる。野外での音響は乾いた音がする。心地よい風が音を運んでいく。

ステージに客が上り客席に向かってダイブする。その客を警備員が引きずりおろす。客はもがき暴れる。他の客がその警備員に飛びかかる。警備員はその客を押さえつける。他の警備員も来て、客をステージに引きずり上げて自分も乗り上がる。客をステージの袖へ引きずりながら退場させる。

みんな何かが足りない。いつも何かが足りないやつらがここに集まるんだと僕は飛び跳ねながら思う。僕たちは空気の抜けたテニスボールみたいだ。テニスボールに空気を入れるためにこの場所で飛び跳ねる。

僕はさらに高く飛び跳ねる。前の男の肩を掴んでその肩に乗り上がるような勢いをつけて飛び跳ねる。ギターソロを弾いているギタリストと一瞬目が合う。ギタリストはもっと跳ねろ、と言っているように思える。

飛び跳ねた僕は人の波に押されてバランスを崩し、足を踏み外してベンチとベンチの隙間に落ちる。すぐに前の男のライダースジャケットの袖を掴みながら足で地面を探す。僕が落ちることで窪みができ、その窪みの中にいる僕の上に周りの人もバランスを崩してのしかかってくる。
僕は人波に押し込められながらも前の男の袖を掴んで離さない。足が地面を踏みしめた瞬間に、両手にありったけの力を入れて這い上がり、ベンチ式の椅子に乗り上がる。そして、また誰かの肩を掴みながら飛び跳ねる。

ステージから客席に向かってライトがあてられる。客席で蠢いている生物が一人一人の観客になり、その顔がくっきりと浮かび上がる。僕はステージに向かって腕を突き上げ、前の客の肩に乗り上げながら飛び跳ねている。

後ろを振り返ると、客席の後ろのほうでは煙草を吸ったりビールを飲んだりしながらゆったりとステージを眺めている。
客席が埋まる人数のほとんどが前に来ているから後ろの席はがらがらだ。汗とヘアスプレーと革と煙草とビールの匂いが入り混じっている。

僕はライトの光に照らされている。光に包まれながら空に向かって飛び跳ねている。ライトの光の中を幻想的な湯気が漂う。
観客席は一体となった大きなうねりを見せながらその激しい音楽と融合する。そしてさらに激しく僕たちは飛び跳ねる。

++++++

ライブは4曲で終わった。正確には5曲目が始まるギターのイントロの途中で打ち切られた。20分くらいの出来事だ。

中止のアナウンスが流れる。ステージ上のスタッフに向かって続行を呼びかけている人や警備員に掴みかかって小競り合いをしている人。客席の後ろのほうで煙草を吸いながら話をしている人やあきらめて帰る人。
しかし、ほとんどの人が大音楽堂のベンチ式の椅子の上に立ったまま呆然としていた。

僕はステージの方へ彼女を探しに行った。彼女は前から2列目あたりの椅子の下を覗き込んでいた。靴が片方なくなっちゃったの。僕は一緒にその白いエナメルのラバーソールを探し始めた。
僕も彼女もどしゃ降りの雨に降られたかのようにびしょ濡れで、彼女の髪の毛からは汗の雫がたれていた。僕たちの体からは湯気が出ていた。僕は肌に張り付いたシャツやジーンズを肌からはがした。

しばらく探していたが彼女のラバーソールは見つからない。椅子の下にも地面にも大量のさまざまな物が転がっていたからだ。

靴底が5センチもあるラバーソールの右足だけではバランスが取りにくいようで、彼女は右足に履いていたラバーソールを脱いだ。

そして彼女はそれを手に持ったまま左足のラバーソールを探し続けていた。
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そうけいようパパ

ラバーソールの靴は新宿の駅前か下北沢で買いました。

04

17

08:33

たけし

前編、後編ともに本当に貴重なお話を読ませていただきました!あの時のあの現場に居た方の話をまさかマラソンブログで読めるとは思ってもなかったですが(笑)
以前NAOKIさんが雑誌でこの時のことインタビューで…
凄い長くなりそうなんで今度お会いした時に話します!
先日、ラフィンノーズの企画「不法集会」でラストのゲットザグローリーをチャーミー、ポン、ナオキ、マルでやったそうです。行きたかったですが、はなもも前で行かなかったんですが凄い後悔してます。。
あぁ、やっぱり長くなった!すいません。ちなみに僕はラバーソールよりDr.マーチンやバックルブーツのが好きです。

04

17

17:54

mizore

太陽に吠えろからモンモンモンモンしてます。
ボスは山さんより若そうだけど、おいらはドラマーどころか中年のブルドッグにしか見えなかったとか、4月19日前後半は、カッコいいなあー、小説にしてほしいとか。

チャレフジ、レポ楽しみにしてます!

04

17

20:50

しろくま

当日いたんですか。すごい...。
ラフィンノーズが流れる高校時代を過ごしましたが当時ライブにいく度胸はなかったです。
90年ころにMEAT MARAKETがでたあたりのコンサートに行きましたが...。
最前列でみんな立っている中頑なに座って観ていた記憶が...蘇りました。

チャレ富士でのget the glowly 若しくはblight'n shadow祈念(?)しております。

04

17

23:54

アレキ


そうけいようパパさん

私は当時お金がなかったのでラバーソールを買ったのはもっと後のことでした。
原宿にテント村ってありませんでした?なんか鋲とかがバラで売ってたりするとこ。
よく原宿に行ってたような気がします。

04

18

07:24

アレキ


たけしさん

半分くらいはたけしさんのためだけに書きました(笑)
ただ記憶がおぼろげということもあって細部はかなり違うと思います。
空気感みたいなものが書ければいいかなと。
野音の前の戸田でのライブが途中で打ち切りになってその半券を持っていれば会場に入れたりとか、チケット代が当時でも破格の2000円だったり、あとは解散の噂もあったので、満員でなんか普段より客席の熱がすごかった覚えがあります。
この当時の僕はラバーソールもDr.マーチンもお金がなくて買えませんでした。労働者の音楽だ!と開き直って、本物の安全靴履いてました(笑)
今度ゆっくり話しましょう。

04

18

07:32

アレキ


mizoreさん

モンモンモンモンしてるんですか(笑)
殿下ってマジメで二枚目な印象だったのですがけっこうチャラチャラしてたりとか改めて観ると面白いです。
チャレ富士ですかぁ。逃げ出したいです(涙)

04

18

07:37

アレキ


しろくまさん

たしかに怖いんですけど、怖いもの見たさというか、自分も中に入ってしまえばなんとかなるというか。
あの日の前も野音では何度かやっていて、観に行ったりしてたんですけどね。
野音ってやっぱりいい会場ですよね。すごく好きな場所です。

そういえばその後、やっと関東でライブができるとかって高崎まで行ったことあるんですけど、遠かったなぁ。

04

18

07:41

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