04

16

コメント:

1987年4月19日 前編

霞ヶ関の駅で降りるとそこにはすでにさまざまな色があった。ピンクの逆立った頭。ブルーのモヒカン。透明に近い金色の頭。頭頂部は濃い黄色で周りは黒い頭。まるでなにかの花みたいだ。
スキンヘッド。短い髪の毛を逆立てた頭。降ろしたら肩の下までありそうな髪を逆立てた頭。金髪の坊主頭。

破れたジーンズを穿きワークブーツを履いている男。革のライダースジャケット。三センチぐらいの鋭利な鋲がついている。包帯を腕にぐるぐる巻いていたり、ジーンズのジャケットに無数の安全ピンが付けられていたりする。

彼女はバスの絵が描いてあるガーゼでできたシャツを着て、破れた薄い色のブルージーンズを穿き、その下には濃い色のブルージーンズを穿いていた。
破れたジーンズは安全ピンでところどころが留められている。靴は白いエナメルのラバーソールで靴底は五センチもある。
髪の毛を逆立ててはいない。骸骨の形をしたシルバーのバックルのついた黒くて太いベルトをしている。

僕たちは地上の出口へ向けて歩く。地上へ出るとそこは日比谷公園の入り口だ。公園内にはさらに多くの同じような人々がいる。スーツを着たサラリーマン風の男たちがこの奇妙な光景を見ながら足早に公園から去っていく。公園の入り口から大音楽堂へと続く道には屋台も出ていた。たこ焼きとか焼きそばとかビールが売られている。

僕たちはまっすぐ大音楽堂に向かって歩く。春の柔らかい風が木々を揺らしている。その木の下では革のライダースジャケットや金色の逆立てた髪や破れたブルージーンズやピンクのモヒカンやさまざまなものが揺れている。ツツジやヤマブキやライラックの花の匂いと革とヘアスプレーの匂いが混じり合い、その匂いを風が運んでいく。花の色の鮮やかさと髪の毛の色の鮮やかさが入り混じっていく。

大音楽堂の入り口でチケットを見せて通路を早足で歩く。すり鉢状の客席のステージは前から三分の一ほどがすでに人で埋まっている。色とりどりの髪の毛の色だ。

客席のほぼ中央にはバンドのロゴマークを描いた旗が振りまわされている。僕たちは客席のほぼ右側に向かって歩く。そちらが僕たちの好きなギタリストの立ち位置だからだ。客席の後ろのほうから階段を降り、途中からベンチ式の客席の上に飛び乗ってそのまま進む。

椅子の上に乗っている人の群れをすり抜け前へと進む。僕はステージから10列目ぐらいのところでこれ以上前へ行くのをあきらめた。彼女は僕よりも小柄だからさらに身を縮めながら人波をかきわけ前へと進んで行き、やがてその姿は人の波の中へ消えていった。

後ろからも途切れることなく人が押し寄せてくるので身動きが取れなくなってくる。僕の前は女だったので斜め前の金色の髪を逆立てている男の肩を掴んだ。女の肩はなるべく掴まないようにする。音楽が始まったら僕が椅子の上から落ちないようにそいつを引きずり落とすからだ。そして後ろの誰かが僕の肩を掴む。

僕はしばらく客席を眺める。空は太陽が沈む直前の青紫色だ。ステージのライトが客席を照らし出している。そのライトの光の中を湯気がするすると空へ昇っていった。満員電車のような状態の客席から、その熱気により湯気が出てくるのだ。

僕は椅子の上で何度か足場を探りながら少しずつ体を前へ押し出ていく。客席中央の旗が誰かに当たり怒声が聞こえる。旗を持った男も怒声を上げながら声がしたほうに向かって旗を叩きつける。人混みの中に打ち下ろされた旗を客席の誰かが掴む。旗を持った男と怒鳴りあいながら旗を引っ張り合う。周囲の人々が揺れ動き、色とりどりの鮮やかな無数の頭はまるでひとつの生き物のように見える。毛虫が蠢くかのように揺れ動く。

そしてその人の波は僕のところまでやってくる。僕は斜め前の男の肩をしっかりと掴み、まったく見ることのできない足場を探しながら人の波をやりすごす。

「あのー、ダイブする?」僕の前にいた女が僕に訊く。

「する」僕はそんなことをするつもりはないのだがそう答えた。

「前に行っていいよ」

僕たちは体を入れ替えて僕が前へ行き、彼女は後ろへ行く。そしてまた僕は前にいる知らない男の肩を掴む。

会場中にセックス・ピストルズの音楽が鳴り響く。歓声や指笛が響く。観客が肩を揺らす。僕が後ろを振り返るともうすでに客席の半分が人で埋まっていた。人のうねりはさらに大きくなり、ひとつになった生物は巨大になっていく。

後ろにいた女は体を強張らしている。女と目が合う。

「大丈夫?」僕は人の波にもまれながら訊いた。

「たぶん」彼女はうつむいたまま目だけを上向きにして答える。

「そしたらさあ、オレの肩につかまれよ。そして自分が椅子から落ちそうになったらオレの肩をつかんで引きずって自分が這い上がるんだ」

「そしたらあんたが落ちちゃうよ」

「大丈夫だよ、オレも前のやつの肩をつかんでるからさ」

「じゃあ、それが一番前まで繋がっているわけ?」

「たぶんそうだろうな」

「じゃあ一番前の人はどうするの?」

「一番前のやつは必死でステージにしがみついてるんだよ」

「ふーん」彼女は僕の肩にしっかりと掴まった。
にほんブログ村 その他スポーツブログ マラソンへ
にほんブログ村
関連記事
スポンサーサイト
管理者にだけ表示を許可する

この記事のトラックバック URL

http://alekithunder.blog.fc2.com/tb.php/804-58080ff1

プロフィール

アレキ

Author:アレキ
走りだして7年目に突入!!
走るのお休み中

カレンダー

07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -

ランキングに参加しています。よろしければお願いします。

JogNote

最新トラックバック

検索フォーム

FC2カウンター

ブログ村新着記事

ブロとも申請フォーム

QRコード

QR

Designed by

Ad